クレアチンは脳にも良い?最新研究からわかる効果と注意点
クレアチンは、筋力や高強度運動のパフォーマンス向上を目的として、世界中で利用されているサプリメントです。
1992年のバルセロナオリンピックでは、男子100メートルで金メダルを獲得した英国のリンフォード・クリスティー選手らが使用していたと報じられ、大きな注目を集めました。
私自身も、筋力向上とトレーニングパフォーマンスの維持を目的として、クレアチンを27年間毎日摂取しています。
近年は筋肉だけでなく、記憶力や集中力など、脳への働きも研究されるようになりました。
【1.最初に結論】
クレアチンが脳のエネルギー代謝に関係していることは確かです。サプリメントの摂取によって、脳内のクレアチン量が増えた研究もあります。
一方、健康な人が飲めば、記憶力、集中力、判断力が必ず向上するとは言えません。
現在、比較的有望なのは、睡眠不足や強い精神的疲労など、脳のエネルギーが不足しやすい状況です。
結論として、クレアチンは「飲むだけで頭が良くなるサプリメント」ではありません。
「特定の条件で認知機能を支える可能性がある成分」と考えるのが適切です。
【2.クレアチンが筋肉と脳を支える仕組み】
筋肉や脳が活動するときには、ATPというエネルギーが使われます。
しかし、体内に蓄えられるATPの量は多くありません。そこでクレアチンリン酸がADPにリン酸を渡し、ATPを素早く再合成します。
わかりやすく表すと、次のような関係です。
・ATP=今すぐ使う電気
・クレアチンリン酸=すぐに使える予備バッテリー
この仕組みは、ベンチプレスや短距離走などで大きな力を出すときだけでなく、考える、覚える、判断するといった脳の活動にも関わっています。
1999年の小規模研究では、健康な若年者6人がクレアチンモノハイドレートを1日20グラム、4週間摂取しました。
その結果、脳内の総クレアチン濃度が平均8.7%増加しています。
ただし、脳は筋肉よりもクレアチンを取り込みにくく、反応には個人差があります。脳内濃度を増やすために必要な摂取量や期間も、現在のところ明確ではありません。
【3.記憶力や集中力は本当に向上するのか】
2024年に発表されたメタ解析では、16件のランダム化比較試験、合計492人のデータが検討されました。
その結果、記憶、注意に要する時間、情報処理速度には一定の改善がみられました。
一方、認知機能全体と実行機能には、明確な効果が確認されませんでした。
さらに、このメタ解析には「二重計上」の問題が指摘されています。
同じ参加者が受けた複数の認知機能テストを、それぞれ独立したデータとして計算していたため、効果が実際より大きく算出された可能性があります。
欧州食品安全機関も研究全体を検討し、2024年に次のように結論づけています。
「クレアチン摂取と認知機能向上の因果関係は確立されていない」
クレアチンが脳で重要な役割を持つことと、サプリメントを飲めば誰でも認知機能が高まることは、分けて考える必要があります。
【4.睡眠不足時には有望な研究結果】
クレアチンの効果が期待されているのは、脳への負担が大きくなっている状況です。
2024年の研究では、健康な若年者15人を約21時間の睡眠不足状態にし、体重1キログラム当たり0.35グラムのクレアチンを摂取させました。
体重70キログラムなら、約24.5グラムに相当します。
その結果、脳内のエネルギー代謝に変化がみられ、睡眠不足による認知課題や情報処理速度の低下が一部軽減されました。
2026年に発表された29人の研究でも、体重1キログラム当たり0.2グラムを摂取することで、次の能力低下が抑えられています。
・論理課題
・数値課題
・言語処理速度
・注意力
ただし、どちらも参加者が少なく、通常より多い量を使った特殊な実験です。
クレアチンを飲めば、徹夜をしても問題ないという意味ではありません。
睡眠不足への基本的な対策は、クレアチンを増やすことではなく、十分な睡眠を取ることです。
【5.脳のために摂取量を増やす必要はあるのか】
筋力や高強度運動を目的とする場合、最も研究されているのはクレアチンモノハイドレートです。
一般的な継続量は、1日3~5グラムです。
1日20グラム前後を数回に分けて摂取するローディング方法もありますが、必須ではありません。
1日3~5グラムを約4週間続ける方法でも、筋肉内のクレアチン量を増やせます。
一方、脳機能の向上を目的とした摂取量は決まっていません。
そのため、次のような方法は推奨できません。
・大事な仕事の前だけ量を増やす
・プレゼンテーションの前に大量摂取する
・寝不足の日だけ高用量を飲む
一度に多量を摂取すると、下痢、腹痛、吐き気などが起こりやすくなります。
【6.長期間摂取する場合の注意点】
健康な成人が推奨量を摂取する範囲では、クレアチンが腎機能を低下させるという一貫した証拠はありません。
ただし、クレアチンの一部は体内でクレアチニンに変わります。
そのため、腎臓に問題がなくても、血液検査では次のような変化が起こる場合があります。
・血清クレアチニンが高くなる
・クレアチニンから計算するeGFRが低く表示される
血液検査を受ける際は、クレアチンを摂取していることを医師に伝えてください。
次に該当する人は、自己判断で摂取を始めたり、量を増やしたりせず、事前に医師への確認が必要です。
・腎臓病や腎機能低下を指摘されている人
・腎機能に影響する薬を使用している人
・妊娠中または授乳中の人
・血液検査で異常を指摘されている人
なお、「クレアチンを飲むと脱水になる」という説は、現在の研究では支持されていません。
運動量、発汗量、気温に応じて、通常の水分補給を行うことが大切です。
【7.クレアチンの脳への効果をどう考えるべきか】
クレアチンは、筋力や高強度運動への効果について、十分な研究が蓄積されています。
脳についても、エネルギー代謝を支える仕組みがあり、睡眠不足などの条件では前向きな結果が報告されています。
現在わかっている内容を整理すると、次のようになります。
・筋力や高強度運動への効果は確立されている
・クレアチンは脳のエネルギー代謝にも関係する
・摂取によって脳内クレアチンが増える場合がある
・睡眠不足時の認知機能低下を抑える可能性がある
・健康な人の記憶力や集中力を確実に高めるとは言えない
・脳を目的とした最適な摂取量は決まっていない
私が27年間摂取している第一の目的も、筋力とトレーニングパフォーマンスの向上です。
脳への働きは、すでに確立された主な効果ではなく、今後の研究が期待される追加的な可能性として捉えるのが、現在のエビデンスに合った考え方です。
【主な参考文献】
・Stout JR, et al. The birth of modern sports nutrition: tracing the path from muscle biopsies to creatine supplementation. 2025.
・Dechent P, et al. Increase of total creatine in human brain after oral supplementation of creatine-monohydrate. 1999.
・EFSA Panel. Creatine and improvement in cognitive function. 2024.
・Gordji-Nejad A, et al. Single dose creatine improves cognitive performance during sleep deprivation. 2024.
・Gordji-Nejad A, et al. Single-Dose Creatine Reduces Sleep Deprivation-Induced Deterioration in Cognitive Performance. 2026.

