内臓脂肪の“本当の危険性”──身体の中で何が起きているのか?

 なぜ内臓脂肪が増えると危険なのか? 科学が解き明かすリスクの正体

1. 脂肪の種類と健康リスクの違い

私たちの体につく脂肪には、主に2つのタイプがあります。

• 皮下脂肪:

腕、お尻、太もも、下腹部などにゆっくりと蓄積し、落ちにくい特徴があります。女性に多く見られ、比較的、生活習慣病との関連は弱いとされています。

• 内臓脂肪:

腹腔内の内臓の周りに蓄積する脂肪で、短期間で増えやすく、生活習慣の改善で比較的早く落ちやすいという性質があります。男性に多く、この内臓脂肪の過剰な蓄積こそが、生活習慣病との関連が非常に強いことが分かっています。

2. 脂肪細胞は「エネルギーの袋」ではない!

かつて脂肪細胞は、単にエネルギーを貯蔵するだけの存在と考えられていました。しかし、最新の医学では、脂肪細胞が**「内分泌器官」として、全身の代謝や血管の機能に影響を与えるさまざまな生理活性物質(アディポサイトカイン)**を分泌していることが分かっています。

アディポサイトカインには、全身にとって良い働きをする「善玉」と、悪い働きをする「悪玉」があります。

⚠️ 内臓脂肪が増加するとバランスが崩れる

内臓脂肪が過剰に蓄積し、脂肪細胞が肥大化すると、このアディポサイトカインのバランスが崩れます。

• 善玉物質の減少: 血管を保護し、インスリンの効きを良くする(インスリン感受性の改善)アディポネクチンなどの分泌が減少します。

• 悪玉物質の増加: インスリン抵抗性の悪化や、血栓形成の促進、高血圧への関与などをする物質(TNF-\alpha、PAI-1など)の分泌が増加します。

この分泌異常が、血糖を下げるインスリンの効きを悪くする(インスリン抵抗性)主要因となり、高血圧や脂質異常症の原因となって、最終的に動脈硬化を加速させるのです。

3. 健康リスク評価の基準:「メタボリックシンドローム」

内臓脂肪の蓄積が引き金となり、複数の生活習慣病リスクが重なり、より危険な状態になったのが「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」です。個々の指標(血圧・血糖・脂質)が軽度な異常であっても、リスクが相乗的に高まることが確認されています。

日本の診断基準(8学会合同基準)

日本では、以下の必須項目(腹囲)を満たし、かつ選択項目から2つ以上に該当する場合にメタボリックシンドロームと診断されます。

【必須項目:内臓脂肪の蓄積の目安】

• 腹囲が 男性 85cm 以上、女性 90cm 以上であること。

• (補足)この腹囲は内臓脂肪面積 100cm² に相当するとされ、内臓脂肪の過剰な蓄積が疑われる目安です。

【選択項目:以下のうち2つ以上】

• 高血糖: 空腹時血糖値 110mg/dL 以上

• 脂質異常: 中性脂肪 150mg/dL 以上 または HDLコレステロール 40mg/dL 未満

• 高血圧: 収縮期血圧 130mmHg 以上 または 拡張期血圧 85mmHg 以上

※注意点:この腹囲は「内臓脂肪の過剰な蓄積が疑われる」目安であり、この上で他のリスクが重なることでメタボリックシンドロームと診断されます。

4. 内臓脂肪の増加と関連が明確な健康障害

過剰な内臓脂肪の蓄積は、以下の疾患のリスクを科学的に確実に高めることが証明されています。

• 循環器疾患・動脈硬化(心筋梗塞、脳卒中など)

• 代謝性疾患(2型糖尿病、高血圧、脂質異常症)

• 肝疾患(脂肪肝 / 非アルコール性脂肪性肝疾患 / NAFLD・NASH)

• その他の合併症(睡眠時無呼吸症候群、変形性膝関節症など)

過度な「○倍」といった表現は避けるべきですが、内臓脂肪型肥満がこれらのリスクを確実に上げることは証明されています。つまり、血糖コントロールの悪化、血圧の上昇、中性脂肪の増加、そして**血管の硬化(動脈硬化の促進)**といった複数のリスクが積み重なることで、将来的な病気の確率が高まります。

5. シンプルで効果的な内臓脂肪の落とし方

内臓脂肪は「落ちやすい」脂肪です。生活習慣の改善による効果が比較的早く現れやすいのが特徴です。

内臓脂肪を減らすために効果が確認されているのは、以下の3つのシンプルなアプローチです。

1. 食事量の調整

• 摂取カロリーを適正化し、特に脂質と糖質の過剰摂取を控える。

2. 運動習慣の継続

• 内臓脂肪の燃焼には、ウォーキングなどの有酸素運動が特に有効です。

• 基礎代謝の維持・向上のため、筋力トレーニングも組み合わせましょう。

3. 質の高い睡眠とストレス管理

• 睡眠不足やストレスは、食欲や代謝を調整するホルモンを乱し、内臓脂肪の蓄積を助長する可能性があるため、十分な睡眠とリラックスを心がけましょう。

この3つを整えることで、数週間単位で体に変化を感じやすくなります。