トレーニングで力を発揮するためには、食事からエネルギーと栄養を確保することが大切です。しかし、「何を食べるか」だけでなく、「いつ、どのくらい食べるか」も体調を大きく左右します。
パーソナルトレーニングの直前に通常量の食事をとると、吐き気、胃もたれ、腹部の張り、めまい、冷や汗、ふらつき、顔面蒼白などが生じ、ひどい場合には嘔吐することがあります。
小濱トレーニングジムでは、安全にトレーニングを行うため、通常の食事は開始3時間前までに済ませていただくようお願いしています。
ただし、同じ3時間前の食事でも、白米と鶏肉を適量食べた場合と、揚げ物や大盛りのラーメンを食べた場合では、胃にかかる負担が異なります。トレーニング前は、食事の時間とともに、消化しやすい内容を選ぶことが重要です。
【トレーニング直前の食事で気分が悪くなる理由】
食事をすると、胃は食べ物を細かくしながら少しずつ小腸へ送り出します。胃の中に多くの食べ物が残っている状態で強度の高い運動を始めると、消化が落ち着かないまま全身を動かすことになります。
特にスクワット、デッドリフト、レッグプレス、ローイングマシン、サーキットトレーニングなどは、腹圧が高まりやすく、胃の不快感や吐き気につながることがあります。
また、強度の高い運動では消化管の血流や胃腸の動きが変化します。脱水、暑さ、緊張、睡眠不足などが重なると、症状がさらに起こりやすくなります。運動時の消化器症状には、食事、運動強度、脱水、熱ストレスなど複数の要因が関係することが報告されています。運動時の消化器症状に関するレビュー
運動直前の食事量が多いほど、また運動強度が高いほど、吐き気が強くなりやすいことも確認されています。上部消化管症状に関する医学的レビューでも、吐き気や嘔吐が起こりやすい方への対策として、運動前3時間は固形物を避ける方法が示されています。Upper Gastrointestinal Issues in Athletes
【「消化の良い食べ物」と「消化の悪い食べ物」は何で決まるのか】
食品を一律に「消化が良い」「消化が悪い」と分けることはできません。胃に残る時間や不快感の出やすさは、次の条件によって変わります。
■ 1.食事量
最も注意したいのが食べ過ぎです。消化しやすい白米やうどんでも、大量に食べれば胃に残りやすくなります。
トレーニング前は満腹になるまで食べず、「もう少し食べられる」と感じる程度に抑えるほうが安全です。
■ 2.脂質の量
脂質は胃から小腸へ食べ物が送られる速度を遅くする要因の一つです。
揚げ物、脂身の多い肉、クリーム、チーズ、マヨネーズなどを多く含む食事は、食後3時間経過しても胃もたれが残る場合があります。
脂質は健康維持に必要な栄養素ですが、トレーニング直前に大量にとる必要はありません。大切なのは、脂質を避けることではなく、摂取する時間を調整することです。
■ 3.食物繊維の量
玄米、雑穀米、豆類、きのこ、海藻、ごぼう、大量の生野菜などは健康に役立つ食品ですが、食物繊維が多く、胃の中でかさが増えやすい食品です。食物繊維の種類によっては胃内容物の排出を遅らせることがあり、腸内で発酵するとガスや腹部の張りにつながります。
これらの食品が身体に悪いわけではありません。トレーニング直前ではなく、トレーニング後や別の食事で十分にとるという考え方が適しています。
■ 4.固形物か液体か
一般的には、固形物よりも液体や細かくした食品のほうが胃を通過しやすい傾向があります。そのため、固形物で気持ちが悪くなりやすい方でも、水で溶いたプロテインや少量のスポーツドリンクであれば問題が起こらない場合があります。
ただし、液体なら何でも消化が良いわけではありません。高濃度のプロテイン、大量の牛乳、糖分の濃い飲料を一気に飲むと、胃の重さや吐き気が出ることがあります。
■ 5.体質、体調、服薬
乳糖不耐症、逆流性食道炎、過敏性腸症候群などがある方は、一般的に消化しやすいとされる食品でも症状が出ることがあります。
また、セマグルチドやチルゼパチドなどのGLP-1受容体作動薬・GIP/GLP-1受容体作動薬は、胃の内容物が排出される速度に影響し、吐き気や胃もたれが起こることがあります。GLP-1受容体作動薬と消化管運動に関するレビュー 糖尿病治療薬を使用している方は、食事を空け過ぎることで低血糖が起こる可能性もあるため、自己判断で食事や服薬を変更せず、医師の指示を優先してください。
【トレーニング3時間以上前に適した食事】
通常量の食事をとる場合は、トレーニング開始3時間前までに食べ終えることを基本とします。
主食となる炭水化物に、脂質の少ないたんぱく質を組み合わせます。野菜は大量の生野菜ではなく、加熱したものを適量にすると胃の負担を抑えやすくなります。
食事例は次のとおりです。
● 白米150~200g+鶏むね肉または白身魚80~120g+加熱した野菜
● うどん1人前+卵または脂質の少ない鶏肉
● 食パン2枚+卵または脂質の少ないハム+バナナ
● おかゆ+卵+少量の温野菜
量は体格、年齢、トレーニング内容、減量の有無によって調整します。揚げ物や脂質の多い食事、量の多い食事をとった場合は、3時間より長く空けたほうがよいこともあります。
【開始1~2時間前に空腹を感じた場合】
最後の食事から時間が空き、空腹によって力が出にくい方は、消化しやすい補食を少量とります。
● 小さめのおにぎり半分~1個
● 熟したバナナ
● カステラ1切れ
● 脂質の少ない栄養ゼリー
● 低脂肪ヨーグルト(乳製品で不調が出ない方)
● 水で薄めに溶いたプロテイン
ただし、過去にトレーニング前の固形物で吐き気や顔面蒼白が起きた方は、この時間帯の補食も無理にとらず、通常の食事から3時間以上空けることを優先します。
【開始30~60分前の食事】
この時間帯に通常の食事をとることは避けます。
どうしても空腹が強い場合は、普段から飲み慣れているスポーツドリンクや栄養ゼリーなどを少量にとどめます。初めて飲むサプリメントやプレワークアウト製品を、トレーニング直前に試すことは勧められません。
プロテインも必須ではありません。たんぱく質はトレーニング直前だけでなく、1日全体で必要量を確保することが重要です。ISSNのプロテイン摂取に関する公式見解 トレーニング前に無理に飲んで気分が悪くなる方は、終了後の食事を含めて1日全体で必要量を確保します。
【開始30分以内は食べない】
トレーニング開始まで30分を切っている場合は、固形物や高濃度の飲料を避けます。水分は一気に飲まず、口を潤す程度から少しずつとります。
「食事をとれなかったから、直前に急いで食べておこう」という判断は、かえってトレーニング中の体調不良につながります。
【トレーニング前に消化しやすい食品】
一般的には、次のような食品が選びやすくなります。
● 白米、おかゆ、塩むすび
● うどん
● 食パン、脂質の少ないパン
● 熟したバナナ
● カステラなど脂質の少ない補食
● 鶏むね肉、ささみ、白身魚
● 卵
● 低脂肪ヨーグルト
● 少量の栄養ゼリーやスポーツドリンク
同じ食品でも、食べる量が多ければ胃に残ります。「消化に良い食品だから、直前にたくさん食べても大丈夫」という意味ではありません。
【トレーニング直前は避けたい食品】
次の食品は、脂質、食物繊維、刺激物、食事量などの影響により、胃もたれや腹部症状につながりやすくなります。
● 唐揚げ、天ぷら、とんかつなどの揚げ物
● 焼肉、脂身の多い肉
● ラーメン、カレー、ピザ、ハンバーガー
● クリームを多く使った菓子、チョコレート
● 玄米、雑穀米、ブラン入りシリアル
● 豆類、きのこ、海藻、ごぼう、大量の生野菜
● ナッツ、ピーナッツバター
● マヨネーズやバターを多く使ったパン
● 香辛料の強い料理
● 炭酸飲料、エナジードリンク
● アルコール
● ナッツや糖アルコールを多く含むプロテインバー
糖アルコールは、「シュガーレス」「低糖質」と表示されたプロテインバーや菓子類に使われることがあります。ソルビトール、マルチトールなどを一度に多くとると、腹部の張り、ガス、下痢につながる場合があります。糖アルコールと消化器症状に関するシステマティックレビュー
【60分のパーソナルトレーニングに特別な糖質補給は必要か】
長時間の持久系競技では、運動前から計画的に炭水化物を補給することが推奨されています。栄養と競技パフォーマンスに関する共同声明 しかし、一般的な60分間のパーソナルトレーニングで、競技者と同じ量の糖質を直前に詰め込む必要はありません。
多くの場合、3時間前に適量の食事をとり、普段の食事でエネルギーとたんぱく質を確保できていれば対応できます。減量中でも、空腹で体調を崩す方が無理に絶食する必要はありません。反対に、空腹でも問題なくトレーニングできる方へ、直前の補食を一律に勧める必要もありません。
トレーニング前の食事は、体質とトレーニング内容に合わせて調整します。
【水分は直前にまとめて飲まない】
水分不足は、運動時の吐き気や体調不良を起こしやすくする要因です。ただし、開始直前に大量の水を一気に飲むと、胃が揺れて気分が悪くなることがあります。
トレーニングの数時間前から少しずつ水分をとり、開始時点で喉が強く渇いていない状態を目指します。発汗量、気温、体格、持病などによって必要量は異なるため、全員が同じ量を飲む必要はありません。ACSMの水分補給に関する公式見解
【顔面蒼白や吐き気が起きた場合】
トレーニング中に吐き気、冷や汗、ふらつき、顔面蒼白などが現れた場合は、直ちにトレーニングを中止します。
顔面蒼白は目で確認できる症状ですが、それだけで「貧血」と診断することはできません。食事の影響だけでなく、血圧低下、脱水、低血糖、迷走神経反射、過呼吸、心臓の問題など、さまざまな可能性があるためです。
意識を失った場合や、胸痛、強い動悸、呼吸困難、反応の低下などを伴う場合は、速やかな救急対応が必要です。顔面蒼白や失神しそうな症状を繰り返す場合は、食事の時間だけで解決しようとせず、医療機関を受診してください。
【小濱トレーニングジムでのお願い】
安全にパーソナルトレーニングを受けていただくため、次の点をお願いしています。
● 通常の食事は、トレーニング開始3時間前までに済ませる
● 揚げ物や脂質の多い食事、大量の食事はさらに時間を空ける
● 開始前に満腹感、吐き気、めまいなどがある場合は必ず伝える
● 直前に初めてのサプリメントやエナジードリンクを試さない
● 糖尿病治療中の方は、医師からの食事・服薬指示を優先する
初回体験時にも、最後に食事をとった時間、当日の体調、服薬状況などを確認したうえで、トレーニング内容と強度を調整します。
トレーニング前の食事で大切なのは、単に栄養を多くとることではありません。食事の内容、量、時間を整え、胃に負担を残さず、安全に力を発揮できる状態をつくることが重要です。
【参考資料】
● Nutrition and Athletic Performance:Academy of Nutrition and Dietetics、Dietitians of Canada、ACSM共同声明
● Gastrointestinal Complaints During Exercise:運動時の消化器症状に関するレビュー
● A Narrative Review of the Causes of Nausea and Vomiting in Sport
● Upper Gastrointestinal Issues in Athletes
● International Society of Sports Nutrition Position Stand:Protein and Exercise
● ACSM Position Stand:Exercise and Fluid Replacement
● Gastrointestinal Motility Effects of GLP-1 Receptor Agonists
● A Systematic Review of the Effects of Polyols on Gastrointestinal Health

