プルオーバー

プルオーバーは胸のトレーニング?背中のトレーニング?投球やパフォーマンス向上への効果とは

「プルオーバー」という種目をご存知でしょうか?

このエクササイズは、胸のトレーニングとして紹介されることもあれば、背中の種目として分類されることもあります。実際には、その動作の軌道や可動域の使い方によって、どちらにも効かせることができる多用途なトレーニング種目です。

今回は、そんなプルオーバーが持つトレーニング効果と、ベンチプレスや野球の投球、ゴルフなどスポーツパフォーマンスとの関連性について、研究データや現場経験を交えながら解説していきます。

プルオーバーは「胸」or「背中」?

結論として、プルオーバーは胸にも背中にも効果のある種目です。

どちらに効かせるかは、フォームや可動域の取り方で変わります。

胸に効かせたい場合のポイント:

肩関節の動きをやや水平内転寄りにする 胸郭の拡がりを意識しながら、可動域を浅めに調整する 大胸筋上部や前鋸筋が主に刺激される

背中(広背筋・大円筋)に効かせたい場合のポイント:

可動域を大きく取り、バンザイ状態から腕を深く引き下ろす 肩関節の伸展を最大限活かすような軌道を取る 肩甲骨の下制や内転動作を意識する

筋電図(EMG)による研究(Schoenfeld et al., 2011)では、ダンベルプルオーバーにおいて大胸筋と広背筋の両方が強く活動することが示されており、ターゲット筋は使い方によって調整できる種目であることがわかります。

野球の投球スピードが上がる理由

投球動作には、肩関節の伸展・内旋・内転など多くの動きが関与しています。特に「コッキング期から加速期」にかけては、肩を大きく後方から前方へ振り抜く動作で、広背筋や大円筋の瞬発的な力が重要です。

プルオーバーを行うことで、以下のような効果が得られます。

肘を引き下げるパワーの強化(広背筋・大円筋の収縮力向上) 肩関節の可動域を広げることで、より大きくしなやかな投球動作を実現 肩甲骨の安定性が高まり、フォームの崩れやケガのリスクが減少

特にプロ投手に関する研究(Escamilla et al., 2007)では、投球時に広背筋の高い筋活動が確認されています。また、Kiblerらの報告によると、肩甲骨の動きと広背筋の筋力は投球パフォーマンスと密接に関係しているとされています。

ゴルフ・水泳・格闘技にも応用できる

プルオーバーは野球以外にも、次のような競技に有効です。

ゴルフでは:

背中の柔軟性と収縮力がスイングの回旋スピードに直結 肩と胸郭の連動性が高まり、トップからフォロースルーの安定感が増す

水泳では:

バタフライやクロールの「プル動作」における推進力を高める 肩の可動域を確保しつつ、フォームを崩さずにリカバリーできる

格闘技・柔道では:

相手を引き込む、崩すといった動作のパワー源として有効 背中と体幹の連動を高め、組手やグリップの強化にもつながる

ベンチプレスの記録向上にも直結する

プルオーバーは“背中を使ってベンチプレスを安定させる”という観点から、非常に有用な補助種目です。

特に次のような効果が得られます:

広背筋を強化することで、ベンチ中の背中の安定性(ラットドライブ)を高める 肩関節の可動域が広がり、バーベルをより深く下ろせるようになる 肩甲骨の動きが良くなり、スタートポジションや切り返し時のフォームが安定する プルオーバーの動きにより、大胸筋上部にストレッチ刺激が入り、インクラインベンチプレスの補助にもなる

これらの相乗効果により、単なる筋肥大以上に**「フォームの安定化+出力効率の向上」**が狙えるのが、プルオーバーの強みです。

プルオーバーを導入する最適なタイミング

トレーニング期ごとに、プルオーバーの役割は少しずつ変わります。

オフシーズン(基礎期):肩の柔軟性と筋力を高めるために週2回ほど実施。中~高回数でコントロール重視。 プレシーズン(準備期):フォームの精度を意識しながら可動域の維持と神経系の活性化に活用。 インシーズン(試合期):軽負荷での可動域維持、リカバリー的な意味で週1回程度が適切。 リハビリ・再導入期:関節に優しく、動作パターンの再学習としても有効。

まとめ:プルオーバーは“つなぐ力”を高める万能種目

プルオーバーは、胸や背中といった部位のトレーニングにとどまらず、

スポーツにおける肩の可動性・体幹との連動 ベンチプレスの土台となる安定性 胸郭の拡張・呼吸の効率化 非対称性の補正や怪我予防

といった多くの効果が期待できる、非常に価値のある補助種目です。

競技者はもちろん、一般トレーニーの方にとっても「筋力・柔軟性・連動性」を一度に高められる理想的な種目です。ぜひ自分の目的や時期に合わせて、効果的に取り入れてみてください。