筋肉を知るだけでは足りない|機能解剖学を安全なトレーニング指導へ生かす方法

千葉県木更津市のパーソナルトレーニングジム、小濱トレーニングジム代表のパーソナルトレーナー、小濱裕司です。

トレーニングを指導するうえで、筋肉の位置や働きを知ることは欠かせません。

しかし、「この筋肉が硬いから姿勢が崩れている」「この筋肉が弱いから痛みが出ている」と、一つの筋肉だけで身体の状態を説明することはできません。

筋肉は単独で働くのではなく、関節、神経、腱、靱帯、胸郭、呼吸、感覚などと連係して身体を動かしています。さらに、同じ筋肉でも関節角度や姿勢、負荷の方向によって役割が変化します。

機能解剖学は、身体の状態を一つに決めつけるための知識ではありません。安全で効果的なトレーニングを組み立てるための「地図」として利用することが重要です。

首・肩甲骨周辺の筋肉

首から肩甲骨周辺には、胸鎖乳突筋、僧帽筋、肩甲挙筋、菱形筋、前鋸筋などがあります。

これらの筋肉は、首や肩甲骨を動かすだけでなく、腕を上げる動作にも関係します。

肩甲骨について「常に寄せて下げるのが正しい」と説明されることがありますが、これは正確ではありません。腕を頭上へ上げる際には、肩甲骨の上方回旋、後傾、外旋が必要です。僧帽筋と前鋸筋などが連係することで、この動きが生まれます。

そのため、肩甲骨を固定する練習だけを続けると、かえって腕を上げにくくなる場合があります。

小濱トレーニングジムでは、次のような点を確認しながら種目を選びます。

  • 腕を上げたときに痛みがないか
  • 肩甲骨と上腕骨が連係して動いているか
  • 胸郭の動きが極端に制限されていないか
  • 負荷をかけたときにも動作を保てるか
  • 左右差がトレーニングによって変化するか

ランドマインプレス、ロウイング、ラットプルダウン、オーバーヘッドプレスなどを、目的や可動域に応じて使い分けます。

背中と脊柱を支える筋肉

背中には、広背筋、脊柱起立筋、多裂筋などがあります。

広背筋は腕を後方へ引く動きだけでなく、骨盤、胸郭、上腕をつなぐ大きな筋肉です。脊柱起立筋や多裂筋は、脊柱の伸展、側屈、回旋、姿勢の保持などに関係します。

ただし、これらの筋肉が硬い、または弱いという理由だけで腰痛の原因を特定することはできません。腰痛には、運動負荷、睡眠、心理的ストレス、過去の痛み、活動量、仕事環境など、さまざまな要素が関係します。

腰を曲げる動作や反らす動作も、それ自体が一律に危険なのではありません。問題になるのは、現在の能力を超えた負荷や回数を急に与えることです。

トレーニングでは、デッドリフト、ロウイング、バックエクステンション、キャリー種目などを利用し、動作の許容範囲を段階的に広げます。

呼吸と体幹の働き

体幹には、横隔膜、腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹直筋、脊柱周辺筋、骨盤底筋群などがあります。

これらをまとめて「インナーユニット」と説明することがありますが、これは身体を理解するための一つのモデルです。特定の筋肉だけが体幹を安定させているわけではありません。

軽い運動や呼吸練習では、腹部を軽く引き込むドローインが役立つことがあります。一方、スクワットやデッドリフトなどで大きな力を発揮するときには、腹部全体を固めるブレーシングが適しています。

どちらか一方だけが正しいのではなく、目的と負荷に合わせて使い分けます。

また、体幹トレーニングはプランクを長時間続けることだけではありません。スクワット、デッドリフト、片手で負荷を持つキャリー、プレス、ロウイングなどでも、体幹は大きな力を受けながら姿勢を調整しています。

「腹横筋を鍛えれば内臓が正しい位置へ戻る」「体幹を鍛えればウエストの脂肪だけが減る」といった説明には、十分な根拠がありません。

肩関節とローテーターカフ

肩のローテーターカフは、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4筋から構成されます。

これらは肩を回旋させるだけでなく、腕を動かす際に上腕骨頭を関節窩付近へ保つ役割を担います。ただし、4筋が常に同じ割合で働くわけではありません。

肩のトレーニングでは、外旋運動だけを行うのではなく、次の要素を組み合わせます。

  • 痛みのない範囲での腕の挙上
  • ロウイングやプレス
  • 肩関節の外旋と内旋
  • 前鋸筋と僧帽筋を含む肩甲骨運動
  • 徐々に強くする抵抗運動
  • 必要に応じた速度や反応の練習

腱板に問題がある場合でも、活動をすべて止めるのではなく、状態に応じた能動的な運動療法が中心になります。ただし、術後や脱臼直後などは医師や理学療法士の指示が優先されます。

股関節と大腿部の筋肉

股関節周辺には、腸腰筋、大殿筋、中殿筋、小殿筋、大腿筋膜張筋、内転筋群、ハムストリングスなどがあります。

大殿筋は股関節伸展、腸腰筋は股関節屈曲に大きく関係しますが、実際の動作では複数の筋肉が協力します。

中殿筋についても「膝が内側へ入るのは中殿筋が弱いから」と断定することはできません。膝の動きには、足部、足関節、股関節、体幹、動作経験、課題の速度、負荷などが関係します。

スクワットで膝が内側へ動くこと自体も、直ちに障害を意味するわけではありません。痛み、制御能力、負荷、競技特性を含めて判断する必要があります。

小濱トレーニングジムでは、スクワット、スプリットスクワット、ステップアップ、デッドリフト、ヒップスラスト、レッグカールなどを組み合わせます。

ヒップスラストやレッグカールは、それ自体が危険な種目ではありません。身体の状態に合った可動域、負荷、回数を設定できているかが重要です。

ハムストリングスの肉離れ予防では、ノルディックハムストリングのような伸張性収縮を利用したトレーニングが有効とされています。メタ分析では、ノルディックハムストリングを含むプログラムによって傷害発生率がおよそ半減したと報告されています。

大腿四頭筋と膝関節

大腿四頭筋は、一般的には大腿直筋、外側広筋、内側広筋、中間広筋の4筋として整理されます。研究では追加の筋頭や個人差も報告されていますが、基本的な運動指導では4筋として理解するのが実用的です。

内側広筋斜走線維だけを完全に分離して鍛えることは難しく、特定の足幅やつま先の向きだけで選択的に発達させられるとは限りません。

レッグエクステンションも、一律に膝へ悪い種目ではありません。オープンキネティックチェーンの膝伸展運動は、大腿四頭筋を強化する有効な選択肢です。

前十字靱帯再建後などは、時期、負荷、可動域の調整が必要ですが、適切に処方すればリハビリテーションでも利用されています。

ふくらはぎ・足関節・足部

下腿には、腓腹筋、ヒラメ筋、前脛骨筋、後脛骨筋、腓骨筋群などがあります。

腓腹筋は膝を伸ばしたカーフレイズで負荷を受けやすく、ヒラメ筋は膝を曲げた状態でも働きます。そのため、立位と座位のカーフレイズを目的に応じて組み合わせることができます。

アキレス腱の問題に対しても、安静だけが解決策とは限りません。現在の状態に応じて、腱と下腿三頭筋へ段階的に負荷を加えることが推奨されています。

足関節捻挫後は、可動域の回復だけでなく、次の要素が重要です。

  • 下腿と足部の筋力
  • 片脚バランス
  • 足関節の反応能力
  • ホップや着地
  • 方向転換
  • 競技や日常動作に近い負荷

すねの内側に痛みが出るシンスプリントも、後脛骨筋だけが原因ではありません。トレーニング量の急増、路面、シューズ、足部の動き、下腿の能力、回復状況などを総合的に考えます。

急激に強くなる痛み、著しい腫れ、しびれ、筋力低下などがある場合は、運動を継続せず医療機関での評価が必要です。急性コンパートメント症候群は緊急対応が必要な状態です。

筋膜のつながりをどう考えるか

筋膜には身体の各部を連続させる構造があります。筋膜ラインという考え方は、全身のつながりを理解するための仮説的なモデルとして役立つ場合があります。

一方で、特定の筋膜ラインを触っただけで痛みの原因を診断したり、離れた部位の不調を必ず改善できると断定したりすることはできません。

ストレッチ、フォームローラー、手技などは、一時的に動きや感覚を変える補助的な方法として使えます。その後に筋力トレーニングや動作練習を行い、変化を実際の動作へつなげることが大切です。

小濱トレーニングジムでの指導への生かし方

小濱トレーニングジムでは、筋肉の知識を次の順序でトレーニングへ生かします。

1.目的と健康状態を確認する

体力向上、筋力向上、筋肉量の増加、スポーツパフォーマンスなど、目的によって必要なトレーニングは異なります。

既往歴、現在の痛み、服薬、睡眠、運動経験も確認します。

2.実際の動作を見る

姿勢の写真だけで判断せず、スクワット、ヒンジ、プッシュ、プル、片脚動作、歩行などを確認します。

一つの動作だけで原因を決めず、負荷や速度を変えたときの反応も見ます。

3.全身を使う基本種目を中心にする

スクワット、デッドリフト、ベンチプレス、ロウイングなどを中心に、全身の筋力を高めます。

特定の筋肉だけを刺激する運動は、基本種目を補う目的で取り入れます。

4.段階的に負荷を高める

軽い運動を繰り返すだけでは、十分な筋力向上につながらない場合があります。

フォームが安定し、設定回数を余裕を持って行えるようになったら、重量、回数、セット数、可動域、速度などを段階的に調整します。

5.変化を記録して再評価する

可動域が広がったかだけでなく、筋力、反復回数、動作の安定性、日常生活、競技動作などが改善しているかを確認します。

変化が乏しい場合は、「本人の努力不足」とせず、運動選択や負荷設定、回復条件を見直します。

継続できるトレーニングが結果につながる

ACSMが2026年に公表したレジスタンストレーニングの指針では、複雑な方法を追いかけることよりも、継続と個別化が重視されています。

健康な成人では、主要な筋群を週2回以上トレーニングすることが基本です。筋力向上、筋肥大、パワー向上では、それぞれ負荷、量、速度を調整します。

マシン、フリーウェイト、ゴムバンド、自体重のいずれでも効果は期待できます。毎セット限界まで行うことや、特定の器具だけを使うことが必須ではありません。

大切なのは、筋肉の名前を数多く覚えることではなく、解剖学を安全な評価、適切な種目選択、段階的な負荷設定につなげることです。

小濱トレーニングジムでは、身体の一部分だけを原因と決めつけず、その日の状態、運動経験、目的、トレーニングへの反応を確認しながら、個別にプログラムを調整しています。

初回体験では、現在の動作とトレーニング経験を確認したうえで、目的に合った基本種目から進めていきます。

参考資料