正しいストレッチ活用法

運動前は動的ストレッチが基本

運動前に筋肉や関節を準備する際は、静的ストレッチよりも動的ストレッチ(ダイナミックストレッチ)が推奨されます。動的ストレッチは、関節を反復して動かしながら可動域を広げる方法で、以下のメリットがあります。

・筋温を上げて粘性を低下させ、動きやすくする

・神経系を活性化し、反応速度や力発揮を高める

・ 競技やトレーニング動作の予行演習になる

筋肉は温まることで柔軟性が高まり、関節の可動域も広がります。額にうっすら汗がにじむ程度まで体を動かすことで、筋温は効率的に上がります。ただし、筋温を上げるだけでは不十分で、神経系の準備も必要です。入浴で温めるだけではその効果は得られないため、軽い全身運動や自重運動と組み合わせることが重要です。

推奨ウォームアップ法:RAMP

近年は「RAMP(ランプ)」と呼ばれる段階的ウォームアップ法が広く推奨されています。

1.Raise(高める)

ローイングエルゴメーター、スキーエルゴ、またはトレッドミルを使って心拍数と筋温を上げます(2〜5分)。  ※ローイングは下肢・体幹・上肢を同時に動かせるため、全身の血流促進に効果的。スキーエルゴは上半身主導の動きで肩甲帯の活性化に優れています。

2 .Activate & Mobilize(活性化と可動化)

股関節・肩甲帯・体幹を中心に動的ストレッチを行います。例:脚振り、ヒップエアプレーン、ワールドグレイテストストレッチ、Tスパインローテーションなど(3〜6分)。

3.Potentiate(高める)

競技動作や当日のメイントレーニングを軽い負荷から始め、徐々に強度を上げます。例:バーベルベンチプレスなら空バー→50%→70%の重量で各3〜5回(1〜3分)。

この流れで合計5〜12分程度を目安に行えば、筋温・神経系・関節可動域がバランス良く準備できます。

静的ストレッチは運動後に

静的ストレッチは、関節を一定の位置で保持し、筋肉をじっくり伸ばす方法です。運動前に長時間(1部位60秒以上)行うと、短期的に筋力やパワーが低下する可能性があります。そのため、静的ストレッチは運動後に行うのが基本です。

静的ストレッチは、筋肉痛(DOMS)の予防や回復促進効果はごくわずかですが、次の点で有効です。

・疲労感の軽減(主観的なリフレッシュ感)

・ 柔軟性の維持・向上

・姿勢改善や可動域制限の改善

運動後の静的ストレッチのやり方

1部位につき合計60秒を目安に行います(例:30秒保持×2回、20秒保持×3回)。主な部位は以下です。

ふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋)

ハムストリングス

大殿筋

股関節屈筋群(腸腰筋など)

広背筋

大胸筋

三角筋前部

高齢者の場合は、1回30〜60秒保持すると柔軟性改善効果が高まりやすいとされています。

反動はつけず、呼吸を止めないように意識しましょう。筋温が下がる前に行うことで伸張効果が高まります。時間がない場合でも、最低限メインで使った部位だけは伸ばすと良いでしょう。

フォームローリングとの併用

フォームローラーを使ったセルフ筋膜リリースも、静的ストレッチと同程度の関節可動域改善効果があることが報告されています。静的ストレッチと組み合わせれば、柔軟性維持とリラクゼーション効果を同時に得られます。

誤解しやすいポイント

・入浴だけでは不十分

入浴で体は温まりますが、神経系や関節動作の準備はできません。必ず軽い動きを加えましょう。

・パンプアップと血流

運動後のパンプは一時的な血液増加で、悪い状態ではありません。静的ストレッチによる一時的な血流変化は回復を妨げる決定的な証拠はありません。

・筋肉痛対策としてのストレッチ

ストレッチ単体では筋肉痛軽減効果はごくわずかです。睡眠、栄養、活動量管理を優先しましょう。

実践例

筋トレの日(ベンチ・スクワット・デッド)

1.Raise:ローイングエルゴメーター or スキーエルゴ or トレッドミル 2〜5分

2.Activate & Mobilize:脚振り、ヒップエアプレーン、アンクルロッカー、バンドプルアパート(各10回×1〜2周)

3.Potentiate:メインリフトを空バー→50%→70%で各3〜5回

4.クールダウン:使った部位を中心に各30秒×2回の静的ストレッチ

競技系(スプリント・ジャンプ・格闘技)

1.Raise:トレッドミルで軽いジョグ+スキップ 2〜5分

2.Activate & Mobilize:股関節・足首・胸椎の動的ストレッチ

3.Potentiate:動作特異的ドリル(軽いスプリント、バウンディング、軽いミット打ちなど)

4.クールダウン:主要部位を各20〜30秒×2〜3回伸ばす

まとめ

・運動前は「動的ストレッチ+段階的な強度アップ」で筋温・神経・可動域を同時に準備する

・ 運動後は静的ストレッチで疲労感を軽減し、柔軟性を維持・向上させる

・筋肉痛や疲労回復の主役はストレッチではなく、睡眠・栄養・日常活動の管理

・ジムの設備(ローイングエルゴメーター・スキーエルゴ・トレッドミル)を活用すれば、短時間でも効果的なウォームアップが可能