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筋肉は「壊すほど大きくなる」とは限らない
「筋肉はトレーニングで破壊され、修復されると以前より太くなる」
筋肥大の仕組みは、長年このように説明されてきました。しかし現在の研究では、筋損傷は筋肥大に必須ではないと考えられています。
筋肉を必要以上に傷つけたり、強い筋肉痛を起こしたりすることが、筋肥大の条件ではありません。
筋肥大で重要なのは、主に次の要素です。
- 筋肉に十分な力学的張力を与える
- 筋タンパク質の合成を促す
- 必要な栄養とエネルギーを摂取する
- 次のトレーニングに向けて回復する
- 長期的に負荷や回数を伸ばしていく
筋肉は単純に「壊れて元に戻る」のではなく、繰り返される負荷に適応しながら、筋線維を構成するタンパク質を増やしていきます。
筋損傷と筋肥大は同じではない
慣れていない種目、伸張性収縮の強い運動、急激な負荷の増加などでは、大きな筋損傷や筋肉痛が起こりやすくなります。
しかし、筋損傷が大きいほど筋肉が発達するわけではありません。
トレーニングを始めた直後は筋タンパク質合成が大きく上昇しますが、その一部は筋肉を増やすためではなく、損傷した組織を修復するために使われる可能性があります。
トレーニングに慣れて筋損傷が少なくなると、筋タンパク質合成の上昇が筋肥大と結びつきやすくなることが報告されています。
つまり、筋肉痛が強かった最初の数週間より、適切な負荷を継続できるようになってからの方が、効率よく筋肥大が進む可能性があります。
ただし、筋損傷が筋肥大にまったく関係しないと断定できるわけではありません。重要なのは、筋損傷をトレーニングの目的にしないことです。
筋肉痛はトレーニング効果の判定基準にならない
筋肉痛が強いと「よく効いた」と感じますが、筋肉痛の程度だけでは筋肥大効果を判断できません。
筋肉痛は次のような条件でも変化します。
- 初めて行う種目
- 普段より大きな可動域
- ネガティブ動作の強調
- 急激な重量やセット数の増加
- 久しぶりに行うトレーニング
- 睡眠や疲労の状態
筋肉痛がなくても、適切な張力を与え、少しずつ重量や回数を伸ばせていれば、筋肥大は十分に期待できます。
反対に、毎回歩くのがつらくなるほど筋肉痛を起こしても、次回のトレーニングの質が下がれば、長期的には不利になることがあります。
筋肥大の中心となるのは「力学的張力」
筋肥大を促す重要な刺激が、筋線維に加わる力学的張力です。
一定以上の負荷をかけて筋肉を収縮させると、その刺激が細胞内のシグナルへ変換されます。これをメカノトランスダクションと呼びます。
その過程では、筋タンパク質合成の調節に関わるmTORC1などの経路が活性化します。
ただし、mTORC1だけですべてが決まるわけではありません。筋肥大には、トレーニング刺激、栄養、総摂取エネルギー、睡眠、回復力、トレーニング経験などが複雑に関係しています。
特定の分子だけを「筋肥大のスイッチ」と表現するのは、仕組みを理解しやすくする説明ではありますが、実際の人体はそれほど単純ではありません。
毎セット限界まで追い込む必要はない
筋肥大には、運動単位を十分に動員することが重要です。しかし、すべてのセットを完全な限界まで行う必要はありません。
研究では、限界まで反復するトレーニングと、限界直前で終了するトレーニングの間に、明確な筋肥大効果の差が認められない場合があります。
実際のトレーニングでは、基本的にあと1〜3回できる余力を残す「RIR1〜3」が有効です。
この範囲なら十分な刺激を与えながら、フォームの乱れや過度な疲労を抑えやすくなります。
ただし、軽い重量では、限界から遠いところで終了すると高閾値運動単位を十分に動員できない可能性があります。低重量で筋肥大を狙う場合は、比較的限界に近いところまで反復する必要があります。
高重量では早い段階から大きな力が必要になるため、限界まで行わなくても高閾値運動単位が動員されやすくなります。
トレーニング頻度は「週2回」が絶対ではない
各筋群を週2回程度刺激する方法は、トレーニング量を分散し、1回ごとの質を保ちやすいという利点があります。
しかし、週2回がすべての人にとって唯一の正解ではありません。
筋肥大に影響するのは、頻度だけではなく、1週間の総セット数、強度、努力度、回復状態です。
週1回でも十分なトレーニング量と質を確保できれば筋肥大は可能です。一方、1回に多くのセットを詰め込みすぎると後半の質が低下するため、週2〜3回に分散した方が進めやすい場合があります。
頻度は目的ではなく、質の高いトレーニング量を確保するための手段として考えます。
セット数は多いほどよいわけではない
一定の範囲では、トレーニング量が増えるほど筋肥大しやすくなる傾向があります。
しかし、セット数を増やし続ければ、筋肉も同じ割合で発達し続けるわけではありません。回復能力を超えたトレーニングは、重量や回数の低下、関節への負担、睡眠の悪化などにつながります。
見るべきなのは、単純なセット数ではなく、次の変化です。
- 同じフォームで重量が伸びているか
- 同じ重量で反復回数が増えているか
- 適切な可動域を維持できているか
- 次回までに疲労が回復しているか
- 筋力や身体計測値が長期的に変化しているか
筋肥大に必要なのは、一度に筋肉を使い切ることではなく、回復可能な刺激を積み重ねることです。
タンパク質1.6g/kgは「絶対的な境界線」ではない
筋肥大を目的とした1日のタンパク質摂取量は、体重1kg当たり約1.6gがひとつの目安になります。
ただし、1.6g/kgを少し下回ると筋肉が増えず、上回ると急に増えるという意味ではありません。
体格、年齢、食事内容、トレーニング量、減量の有無などによって必要量は変わります。一般的には、体重1kg当たり1.6〜2.0g程度が実用的な範囲です。
減量中、トレーニング量が多い人、摂取エネルギーが不足している人では、2.0〜2.2g/kg程度まで検討する場合があります。
1回の食事に極端な量を集中させるより、1回当たり0.3〜0.4g/kg程度を目安に、1日3〜5回へ分けて摂取する方法が実践しやすいでしょう。
タンパク質だけで筋肉は増えない
ロイシンを含む必須アミノ酸は、筋タンパク質合成を刺激します。しかし、プロテインやアミノ酸を摂取するだけで、十分な筋肥大が起こるわけではありません。
筋肉を発達させるには、トレーニングによる刺激と、筋タンパク質を作るための材料の両方が必要です。
また、炭水化物はトレーニングのエネルギー源として重要です。炭水化物を必要以上に制限すると、使用重量、反復回数、総トレーニング量が低下することがあります。
食事ではタンパク質だけに偏らず、総摂取エネルギー、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルを含めて考える必要があります。
回復時間は一律ではない
「筋肉は48時間休ませる」「72時間空ければ回復する」といった説明を見かけますが、必要な回復時間は一定ではありません。
回復に影響する条件には、次のようなものがあります。
- トレーニングの強度とセット数
- 限界まで追い込んだ割合
- 筋損傷の程度
- 睡眠時間と睡眠の質
- 摂取エネルギー
- 年齢
- トレーニング経験
- 仕事や生活による疲労
- 関節や腱の状態
筋肉痛がなくても疲労が残っている場合があり、反対に軽い筋肉痛があっても問題なくトレーニングできる場合もあります。
回復日数を固定するより、ウォーミングアップ時の動き、使用重量、反復速度、関節の違和感などを確認して判断することが大切です。
筋肥大で追うべきもの
筋肥大のために追い求めるべきなのは、強烈な筋肉痛や限界までの疲労ではありません。
大切なのは、適切なフォームと可動域を維持しながら筋肉に十分な張力を加え、回復できる範囲でトレーニングを継続することです。
- 筋肉痛は必須ではない
- 筋損傷を目的にしない
- 毎セット限界まで行う必要はない
- 重量や回数を段階的に伸ばす
- タンパク質とエネルギーを確保する
- 回復状態に合わせて頻度や量を調整する
筋肉を無理に壊すのではなく、より大きな力を発揮できる身体へ適応させる。
この考え方が、筋力と筋量を長期的に伸ばすための土台になります。
主な参考文献
- Damas F, et al. Resistance training-induced changes in integrated myofibrillar protein synthesis are related to hypertrophy only after attenuation of muscle damage. Journal of Physiology. 2016.
- Morton RW, et al. A systematic review, meta-analysis and meta-regression of protein supplementation on resistance training-induced gains. British Journal of Sports Medicine. 2018.
- Grgic J, et al. Effects of resistance training performed to repetition failure or non-failure on muscular strength and hypertrophy. Journal of Sport and Health Science. 2022.
- Schoenfeld BJ, et al. Effects of resistance training frequency on measures of muscle hypertrophy. Sports Medicine. 2016.
- Sancak Y, et al. The Rag GTPases bind raptor and mediate amino acid signaling to mTORC1. Science. 2008.

